「勉強漫画」の秋玲二さん死去

Asahi.comより。

漫画家で画家の秋玲二さん死去

2006年02月24日20時04分

 秋玲二さん(あき・れいじ=漫画家、画家、本名古川善男=ふるかわ・よしお)が24日、腎不全で死去、95歳。通夜は26日午後6時、葬儀は27日正午から東京都港区芝公園4の7の35の増上寺慈雲閣で。喪主は長男龍夫さん。

 「日本のんびり旅行」など学習漫画を多く手がけた。



個人的には就学前、集英社の「なぜなに理科学習漫画」シリーズの『光・音・熱の魔術師』に夢中になったマンガ家の方です。人生のひどく早い時期に出会ったマンガということですね。のちに理系に進んだのにも、氏の学習マンガの影響はあったかもしれません。時代でいえば、昭和46〜7年ごろになります。『光・音・熱〜』が確か昭和43年(1968年)初版ですから(正確には未確認です。残念なことに手元にない)、刊行後数年で買ってもらったことになります。


その『光・音・熱〜』には、ロウソクくんやジェット機くんなどが登場し、あまつさえ、酸素くんや二酸化炭素くんまで出てきたように記憶しています。秋玲二氏のマンガの特徴には、事物の大胆なキャラ化があったと思います。なんでもとりあえず顔描いて手足を生やしておけばキャラになる、という感じですね。
このはてなダイアリーは「鉱物日記」でもあるので(最近ではとんとそっちのネタをおろそかにしているので忘れられているかもしれないのですが)、ひとつ、そちら方面のネタから具体例をひいてみましょう。
昭和25年(1950年)初版『よっちゃんの勉強漫画 第三集 地学編』の一編です。





いかがですか。なかなかすごいでしょうこれ。
ひじょうにアバウトにではありますが、方解石という鉱物が持つ特徴が手際よく語られています。透明であること、外見上、水晶と似たところがあること、三方向に完全な劈開があること(劈開について詳しくはウィキペディア参照。http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%B8%E3%81%8D%E9%96%8B)、塩酸に溶けて二酸化炭素の泡を出すこと、そして水晶(=石英)は塩酸におかされないこと、ですね。


もちろん、厳密に科学的には、相対的に少量に見える塩酸にかくもすばやく、残渣を残さずに溶けるのはおかしいとか、そういったツッコミは可能でしょう。しかし、この方解石君というキャラ化の前には、そんな野暮はいえなくなるというものです。それよりも、「塩酸の溜まり」が往来にあることや、このような痛ましい事故が起こったのに平然としてるあたり、水晶の野郎の策略なんじゃねえかとか、そちらのいらんことのほうが気になります。


少々話しが横に反れましたが、ようは、こうした「キャラ化」の持つ圧倒的な力を利用して、科学的な概念を「なんとなく」知らせてしまうことに、秋玲二氏の真価はあったと思います。一般にいう「親しみやすく伝える」という機能ですね。これは、キャラ表現であるマンガには意外に難しいことなのではないかと思います。なぜならば、キャラが基盤にある以上、かならず感情移入の主体となる存在が必要であり、もっと極端なことをいえば、マンガには抽象的な主語(英語でいえば It に相当するもの)を置くことができないからです。その点を、このような大胆な事物のキャラ化を通じることで、ある程度クリアしてきたのが、秋氏なのではないかと考えているわけです。


拙著『テヅカ・イズ・デッド』をお読みの方ならば、ここらでピンと来ていると思いますが、おそらくこうした「事物・概念のキャラ化」は、戦後の近代的リアリズムの導入と同時に、次第に難しくなっていきます。一方、秋玲二氏は戦前よりキャリアをはじめられ、ほぼ一貫した作風で通された方です。また、作品は膨大に存在します。上記のような関心により、少しずつ作品を集めだしていた最中の訃報でした。


謹んでご冥福をお祈りいたします。