仙翁鉱山のモリブデン鉛鉱

goito-mineral2004-08-21


モリブデン鉛鉱  福井県大野市若生子中龍鉱山南仙翁鉱床(仙翁鉱山)
黄色板状の結晶、画面左右約1cm 周囲の白色ぶどう状集合は異極鉱




たしか大学二年秋か三年春の採集品だと思う。まだ東海北陸自動車道がほとんどできておらず、名古屋から下道で三時間以上かかった記憶がある。当時は中古のスズキアルトに乗っていて、馬力のない軽自動車でえっちらおっちら福井-岐阜県境の油坂峠を越えたものだ。いわば産地の「開けはな」の時期の採集品である。
この鉱山跡を鉱物産地としてみつけてきたのは、当時のぼくらのグループだったのだ。

ことの発端は中学生のころにさかのぼる。京都の別の産地で行き会って知り合った奈良のコレクター氏からもらった手紙に、この産地のことが書かれていたのだ。いま思うと、よく子ども相手にあんな内容の手紙を送ってきたものだが、コレクター氏が中龍鉱山を訪れたとき、モリブデン鉛鉱が出るのはどこかと鉱山の人に尋ねたら、仙翁谷という、山を越えた反対側だといわれ、行くのを断念したという話であった。そして、大学に入ってその地域の地質図幅を見たところ、仙翁谷という地名と鉱山跡のマークがあった。
大学一年の夏休みに行ってみたら、首尾良くモリブデン鉛鉱を得ることができたというわけだ。

この鉱物は、メキシコ産などのものがよく標本店やクリスタル・ショップに出回っている。小さなものであれば比較的に安価だ。しかし、国内には細かい産地は数多くあるものの、目立った結晶を産する産地となると、この仙翁谷のみとなる。
鉱山跡は明治時代のなかごろに採掘されたものだ。鉱山のズリに「神薬」という当時の薬瓶が落ちていたこともあった。そして、ここのモリブデン鉛鉱は、長いあいだ、記録にだけあって現物のない「幻の鉱物」とされていた。

おりしも、「鉱物情報」で「幻の産地、幻の鉱物」を連載されていた故・櫻井欽一先生にここのモリブデン鉛鉱のサンプルを送ったところ、たいそう喜ばれた。ちょうどこの産地で「幻の〜」の原稿を書いていて、今回の発見で没になりました、と手紙にはあった。連載に書く予定はあったのだろうけれど、ちょうど書いていた、というのは、チャキチャキの江戸ッ子だった先生流のサーヴィスだったと、いまにして思う。


現在では、ずいぶん採集は難しくなっているというが、どうなんだろう。
もう一度、行ってみたい産地ではある。