台風

だいぶん大きい様子。関東でも、場所によってはすでに道路の冠水がはじまってるらしい。
今日からの連休、採集に出かける予定だったひとにはいい気味気の毒なことだ。


台風のなか、強行で採集に出かけてひどい目に遭ったといえば、会社員時代、四国の佐田岬に行ったときがそうだった。
もともと四国出張のあとそのまま夏休みを取るというスケジュールで、佐田岬にあるスティルプノメレーンの産地(なんでも、世界的な大結晶という話だった)をきいて、そこへ行こうとしたわけだ。
松山で仕事を終えて、そのまま特急で八幡浜へ行き、そこで一泊。あ、思い出した。駅の近くの宿がとれなくて1キロ近く歩いたところの商人宿をとり、重い荷物を持って歩く羽目になったりもしたんだ。

一夜明けてみたら台風直撃。そこで大人しくしてれば良かったのだが、しばらく待ってれば抜けるだろう、行けるところまで行ってみようという誤った判断をして、佐田岬の先端まで行くバスに乗ってしまったのだ。ところが、目的とする場所のバス停まで来てみたら、とてもじゃないけれど降りられる状況じゃない。仕方がなく一旦、終点まで行き、引き返してこようとした。すると、岬の尾根筋をまっすぐ走る国道上で、強風と大雨のためバスが立ち往生してしまい、まったく動かない。

バスは風でぐわんぐわん揺れるし、運転手は「この先の消防署に行って、連絡を取ってみます」とバスを降りて行ったきり帰ってこない。ラジオからの台風情報だけが状況を伝える、というほぼ完全な孤立状況。乗客のなかで旅行者はぼく一人で、他は地元のひとや帰省するひとしかいない。

これはどうしたものか、と思って外をみると、先方(岬の先端のほう)から来るタクシーと何台かすれ違う。そこで、バスの窓を開け、タクシーを一台止める。タクシーも早く八幡浜市街に戻りたいものだから、ここから岬の先に行くんならお断りです、と答え、ぼくともうひとり、港に留めている舟が心配だから早く見に行きたい、というお爺さんとの問答になった。そこで機転を効かし、一緒に乗りましょう。ぼくは駅まで戻りますから、最初にそちらの目的のところまで行って、そこからもう一度、戻ってくればいいから、ということで三者合意。バスの料金箱にまーこんくらい置いておけばいいか、で1000円札を置き、窓から外に出てタクシーに乗り込んだ。

そのお爺さんとタクシー代をどう折半したかとかについてはよく憶えてないんだけれど、確か8000円くらい余計な出費をしたように思う。しかし、バスのなかで手持ちの2万5000分の1地形図を開いてみたら、ラジオでいっている台風の位置が、その図幅のなかに入っていたりした(そのわりに、「目」に入ったということはなかった)し、さらにタクシーで駅に戻る途中、風で道路標識が倒れる瞬間と、電線が火花を散らして切れる瞬間を一回ずつ見た。風で切れた電線って路面をはね回るのね。

「まあ、これの見物料と考えれば……8000円は安いかもね」などと力ない笑い話にしたものだったが……あ、思い出した! 駅で特急を待っている間に、雨風が止みだしたんだ!