goito-mineral2004-09-17

11日の日記で、ビンラディンのビデオについて触れたが、あらためて。

よく知られたこの画像だが、ラディンの頭のすぐ右に見えるのが「ガマを抜いた」とおぼしき跡。手掘りか、せいぜい手持ちの小さなドリル程度の道具で丁寧に掘り抜かれた跡のようだ。こういう掘り方をするのは、宝石か標本用のものに限られる。


アメリカ・デンバーのジェム&ミネラル・ギルドのニュース・レターに、簡単なものだが「アフガニスタンの宝石と戦争」という文章があるのをみつけた。コロラド・スプリングス鉱物同好会の月報の記事だ(Pick & Pack, Feb. 2002)。

http://sixfigure.home.comcast.net/Mar02.pdf

この小文で筆者、Ray Berry氏はサンディエゴのジェム&ミネラル・ギルドからの交換ニュース・レターからの情報として、2002年12月時点でのアフガンの宝石の状況について触れている。まず、アクアマリン、エメラルド、クンツァイト、モルガナイト、サファイア、ルビー、電気石……といった宝石鉱物のほとんどが、ヒンドゥークシ山のような東アフガニスタンのペグマタイト、とりわけパキスタンとの国境近くから産していること、そしてその地域で激しい戦闘が行われたことを記している。これは、よく知られた事実だ。

だから、この文章から基本的な事項を押さえることはできるが、それ以上の情報は増えない。一方、筆者は気楽に(そう見える)、自分の想像を記している。

I have not heard any mention of mining or gems in any of the many newscasts from Afghanistan.
I wonder how many of these miners have survived; were they fighters to rid the country of the Taliban; and will they soon be able to go back to mining gems and minerals?

筆者は現地の宝石や鉱物の採掘に関するニュースを聞いていないといい、鉱夫のいくらかは生き残ったと想像する。これはたぶん、彼の希望が混ざっているのだろう。そして彼らを「タリバンを国土から排除する戦士」とした*1うえで、「すぐに宝石や鉱物の採掘の仕事にもどれるだろうか?」といっている。

この先の一文を読んで、ちょっと複雑な気分になった。なんだか少しウンザリもしたんだけど、訳してみます。

Is Bin Laden a rock-hound? Maybe some of our Special Forces soldiers will return with pockets full of specimens picked up in the rubble from the bombing!

ビンラディンはロックハウンド(註:アメリカ英語で鉱物愛好家のこと)かい? 我々の特殊部隊の兵士のなかには、きっと爆撃の瓦礫のなかから拾った標本でポケットをいっぱいにして帰ってくるヤツがいるだろう!」


……そりゃいるかもしれないけどさ。
実際、ぼくにしてもアフガン戦争のあと、激安になったラピスラズリの結晶を買って喜んだりしているわけだから、安価に標本が手に入るかも? という期待までは分かる。そのへん、コレクターの「業」だよなと思う。だけど、こうストレートにいっちゃうのには少し嫌な感じがする。おそらくこの筆者にしたらジョークのつもりなのだろうが、爆撃でできた瓦礫の山のなかに宝石鉱物が落ちていて、それを兵士がこぞって拾い集める光景を脳天気に想像することは、ぼくはちょっとできない。「シンドバットの冒険」じゃないんだぜ、というか、ああ、これがアメリカ人の「気分」なんだなと思ったし、同時に、いやこれをあまり一般化してもいかんな、とも思った。

また、このレポートは、2003年のツーソン・ショウでは、パキスタンの多くのディーラーがアメリカ入国ビザが下りず、出展できなかったことを追記している。いまアフガンものの宝石鉱物が市場に出ていない(この場合の「市場」は、ほぼ日本国内のものを指す。ぼくにはそこまでしか確認できない)のには、そういった事情もあるのだろう。



 

*1: 筆者は「ビン・ラディンに対抗するニュースに従うのならば、エメラルドだけで年に1000万ドルにも達する産出をみていた パンジシール渓谷 が、暗殺された北部同盟マスード将軍の出身地だったことは興味深い」と、控えめな調子ながら、宝石採掘に従事していた人々をタリバンに対抗する側と考えた理由を述べている。