マンガ学会の懇親会で、はじめて話をしたある人から、「いちばん好きなマンガ家は誰ですか?」と尋ねられた。
これが、ぼくにとっては難問なのである。
というか、答えられない。同じ程度に「好き」な作家が多すぎるし、その「好き」の方向性も結構、ばらばらだからだ。
これが高校のころなら、知っている作家名も少ないし、懸命に背伸びをしていろんなことを吸収している時期だったから、そのときの自分が、いちばん手を延ばして延ばして、ようやく届いたような作家名を挙げていただろう。具体的には諸星大二郎だ。
諸星はいまでも大好きな作家の一人だし、ご本人にお会いすることがあったら、間違いなくただの一ファンに戻ってしまうと思うし、自分のものの考え方や感じ方にも影響を受けていると思う(作品をめぐるさまざまな言説も含めて影響を被っている。その意味では、諸星に出会っていなかったら、批評を仕事とすることなどなかったかもしれない)。でも、それでも、「いちばん好きな作家は誰ですか?」という問いに、ただ一人を挙げることはできないのだ。いまこの「はてな」を書いているときには「諸星大二郎」が意識にのぼり、まぁそう答えてもいいのかなと思ったりもするのだけれど、でも、次の瞬間にはそれでもオンリーワンじゃないよな、と思い直したりする。
実際、学会でこう問われたときには、そうですね、手塚治虫ですかねと答えていた。しかもそういって誤魔化したんじゃなく、本気でいっていた。なんといっても、家族や知人以外で、その死に際して涙を流したのは手塚ただひとりなのだ。