「プルートン」はまずいだろう。

毎日新聞より。
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20060822k0000e040061000c.html

太陽系:惑星、最低でも「2増」 定義案3分割で採択へ 

 【プラハ会川晴之】チェコプラハで開かれている国際天文学連合(IAU)総会が先に公表した惑星の定義案について、その修正内容が21日分かった。原案を3分割するというもので、それぞれについて、最終日の24日の総会で採決される。ただ、水星から海王星までの8惑星を「古典的惑星」とし、冥王星小惑星の「セレス」などを「矮(わい)惑星」として区別するなど原案の骨格はほぼ維持されており、採決では太陽系の惑星数が少なくとも二つ増える可能性が高まった。

 定義案に異論が相次いだため修正作業が進められていた。内容は「恒星の周りを回り、自らの重力で球状となる恒星でも衛星でもない天体」と惑星を定義したうえで、(1)「古典的惑星」と「矮惑星」を区別する(2)冥王星と、その周辺にある矮惑星冥王星族(プルートン)」の名称を変える(3)冥王星の衛星とされた「カロン」を二重惑星として認定する−−の3提案に分割。22日に開く討議で矮惑星の名称を決めたうえで、24日の総会で3案をそれぞれ投票にかけ承認を求める。

 会議筋によると、1、2番目の提案は可決の可能性が高いが、3番目の決議には賛否両論があり微妙な情勢だ。3案に分割したことについて同筋は「ごく一部の部分への反対を理由に定義案全体が否決されるのを防ぐため」と説明している。

 三つの提案が承認されれば、「セレス」「カロン」と米研究チームが03年発見し冥王星より大きい「第10惑星」と話題になった「2003UB313」の3天体が新たに惑星となり、太陽系の天体数は12となる。3番目の提案が否決されれば、「カロン」が衛星にとどまるため惑星の増加数は2となる。

 冥王星と周辺の矮惑星の名称は、当初「プルートン」とする案が提示されたが、「言語学的におかしい」「深成岩を示す地質学用語と混同される可能性がある」などの指摘が相次いだため、22日の討議で意見を集約することになった。

毎日新聞 2006年8月22日 15時00分





記事では「プルートン」になってるが、
ぼくが学校で習ったのは「プルトーン」。
たしかに pluton なる語は地学用語にあるんだけど、「深成岩」ではなく「深成岩体」を意味する語だったと思う。
少なくとも「深成岩」は「plutonic rocks」なので、この記事の解説は間違っている。
ちょっと自信がなかったので検索をしてみたのだが、たしかに「plutonic rocks」と「pluton」は使い分けられているし、そもそも概念として別のロジカル・タイプに属するものだ。
日本語でも「深成岩」と「深成岩体」と使い分けられているわけで、これは「人類」と「個人」くらいには違う言葉だと思う。細かい違い、では決してない。


そのへん、この記事を書いた毎日の記者には理系の用語の使い方に対する鈍感さを感じる。もっといえば傲慢さを感じる。
「深成岩体」では、読者になじみがなく、難しくて判らないから、と勝手な判断をして直してしまったのかもしれない。ホントに新聞記者とか大手の雑誌記者のひとって、「読者にわかりませんから」をマジックワードにして、不正確なことを書いたり単なる間違いにしてしまったりとかやっちゃうことが多いからね。
それにもし「そんな細かいこと、専門の人にしかわかりません」と言い訳をするのならば、その「専門分野」それ自体を、でたらめをいっても許される存在として軽視していることになる。


そういう態度って、ようは読者をナメてサボってるだけだし、そういうことをやってるとどんどん信用されなくなってくると思うのだが、毎日の「理系白書」ブログにトラックバックをして、いちおう社員のひとには伝えておくことにします。このブログからは、とても誠実な姿勢が感じられるので、本当に、一縷の望みというか、一筋の光明というか、そんな気持ちでトラックバックをします。
http://rikei.spaces.live.com/



それはさておき、「冥王星族」を「Pluton」と呼ぶのはやっぱりよくないと思う。
よりメジャーで世間の耳目を引く天文学・惑星科学分野が、よりマイナーで斜陽とされがちな地質学・地球科学を言語のレヴェルで蹂躙しているような気になる。
実際、ぼくが卒業した学科だって、「地球科学科」だったのが「地球惑星科学科」に改名されてるし。


日本語で「冥王星族」という意味なのであれば、「Plutoid」じゃないかと思うんだけど、どうなんだろう。