前島賢、手塚以前、フランスから来たマンガ家

昨日は前島君が出ていた『真剣10代しゃべり場』を見損なう。
帰宅してミクシィを見て、松谷id:TRiCKFiSH創一郎さんが自分の日記に実況を書いてるのを読んでようやく知ったというテイタラク
では放送開始のころ何をしていたかというと、都営浅草線戸越駅で終電を待っていたのです。


昨日は品川区区民大学の講義で夕方から品川区立中小企業センターに行ったあと、戸越にある「エッグファーム」(夏目房之介さんのブログの読者ならおなじみのお店)に赴き、夏目さん、ヤマダトモコさんほかの皆さんと、フランス人新人マンガ家、エレーヌ・リコーさんの歓迎会に出ていたのでした。


品川区のほうは「クール・ジャパン 世界に注目される日本文化」と題された連続講座の最終回。
このタイトルで、ということなので、やはり大塚英志氏の著書『「ジャパニメーション」はなぜ敗れるか』を用いて「クール・ジャパン」という空虚なお題目に踊らされてはいかんですよ、というところからはじめ、一気に『テヅカ・イズ・デッド』の概説に入るという構成にしました。
もっとも、日本のマンガ・アニメの特性というか長所に何をもってくるかという点で大塚氏とぼくではまるきり違うわけですが。


それでも、レジュメの冒頭からこんな感じ。
われながらトバしています。

■はじめに
「日本独自の文化であるマンガやアニメが、世界の人々に受け容れられた。それは、手塚治虫を起源とする戦後ストーリーマンガが達成した成果であると同時に、江戸時代から続く伝統文化が現代に現れたものである。いずれにしても、私たちは『日本文化』としてこれを誇ることができる。ジャパン・イズ・クール!」


 私たちはこのような虚妄を打破しなければならない。なぜならば、ここに記してみせたことは、単に現実ではなく、嘘だからである。
 確かに日本のマンガやアニメは海外に進出している。しかし、それは一方で冷静なビジネスとして行われるべきものだ。そのためには、現状をまっすぐ見据え、的確な対処をすることが求められる。そんな場所が、口当たりのよい、薄甘い嘘に満たされていたとしたらどうだろうか。上手くいくビジネスも上手くいかないのは道理だろう。


 よって、私たちは「日本のマンガの起源を手塚に求めるのは誤りであること」「伝統文化を直接継承するものではないこと」「海外のマーケットは実は小さく、これから開拓しなければならないこと」を見なければならない。



思いのほか温度が高いのは、例の竹内一郎手塚治虫=ストーリーマンガの起源』への怒りが反映しています。
彼の本はおよそレヴェルの低いものですが、彼の主張に頷くひともいるかもしれません。ようは、上記したような誤謬を信じていたいひとが少なからずいる可能性はあるってことです。そこで、あえてステレオタイプな意見を作ってみて、それで、という手順を踏んだんですね。


もっとも、ぼくは日本のマンガやアニメが海外で売れること自体には肯定的だし、国や行政の支援、介入についても「やるなら上手くやってくれ」という以上の意見を持っていません。大塚氏のようにハナから拒絶するのではありません。


なので、講座のほうもポジティヴな期待を語るあたりに着地し、また手塚治虫から入る構成も、時間配分も上手くいったのです、が。


ひとつ、予想外のことがありました。
事前に区役所のひとに受講者の年齢構成を尋ね、そこで「5〜60代の方が多いです」と答えられていたんですが、しかし行ってみると……うそじゃん! 60代〜70代、ヘタすりゃ80代の方もいるよ! という状況。
実は内心びびりまくりですよ。そりゃあなた、講座冒頭の挨拶でもそういいましたが自分の親のような世代の人たちなんですもの。それに「まー手塚から入っておけば無難かなー」と思っていたんですが、終わったあと感想カードをちらと見せていただいたら、マンガ読書体験が手塚以前という方がおられました


そこにもってきて、いきなり「ポストモダンが……」とかまで持っていく講義で、たいへん気を使いました。感想を拝見したかぎりでは、思ったよりも面白くきいていただいたようで、ほっとしています。
いつも以上に入念に話し方や内容の配分に神経を使いましたから。




そして疲労困憊しつつも、戸越銀座まで移動して「エッグファーム」へ。
エレーヌ・リコーさんはフランス在住、BDに日本マンガやディズニーの影響をふんだんに取り入れた作風でがんばっている若い方です。
生原稿を見せていただいたんですが、流麗かつ緻密なペン線に目を奪われました。これペン先何を使ってるの? と尋ねると「丸ペン」とのこと。
もっとも、通訳を介した会話(彼女は日本語で日常会話はなんとかなるが、少し込み入った話となるとつらい様子)なので、正確なところまではわかりませんが、太さの強弱をかなりつけつつ、同時に線のシャープさも保つ線は、日本で売られている丸ペンの線じゃない。フランスで売られてるメーカーのだそうで(メーカー名もききましたが失念。通訳のUさんにあとで確認してみます)、日本でも手に入るのならば、案外使えるものかもしれないなと思いました。




追記:竹内一郎本、全然売れていないそうなんで、アマゾンへのリンクを再掲しておきましょう。


手塚治虫=ストーリーマンガの起源 (講談社選書メチエ)

手塚治虫=ストーリーマンガの起源 (講談社選書メチエ)