新鉱物発見物語

岩波科学ライブラリーからの新刊。
今日、ようやく買ってきました。
われわれ鉱物マニアにはお馴染みの、国立科学博物館地学部長・松原聰博士の著書です。


新鉱物発見物語 (岩波科学ライブラリー)

新鉱物発見物語 (岩波科学ライブラリー)



「物語」と銘打っていることからも分かるように、新鉱物発見にいたる経緯を、著者がかかわった最近のものについて記した本です。そこにはいろいろな人がかかわり、また新鉱物の命名にまつわる逸話なども豊富に紹介されています。
「新鉱物の発見」とは、正確にはほかに先駆けて新種記載に足るだけのデータをそろえ、論文を発表、新鉱物として国際後部物学連合に申請し、認可されることを指します。当然のことながら、それは先取権争いでもあるわけで、そのことも、この本の記述をとても人間くさいものにしています。面倒な鉱物学的・結晶学的解説を脇に置けば、専門的な知識がなくてもすぐに読める本です。もちろん、鉱物学や無機化学の啓蒙・入門書として読むこともできます。


確かに、この本で取り上げられている鉱物種の多くは、特殊なものであり、地球全体をシステムとみなして解釈する現在の地球科学のトレンドからみれば、重箱のスミをつつくようなものに見えるかもしれません。しかし、人間くさい営みへの興味から、科学的な自然への取り組みへの関心へとつなぐものという意味で―あえてそれを「言葉の最良の意味で」といいますが―とても教育的な書といえるでしょう。
とかく、高校や中学の理科の先生のなかには、こうした本の真価を想像することができず、「教育的」「科学的」なものとは、禁欲的な、つまらないものであるべきと考えるひとがいますが、そうしたひとの奉じる「科学」とは、本来的な意味での「科学」ではなく、教員特有のナルシスティックな自意識にへばりついたタチの悪い幻想というべきものでしょう。この本はそんなものとは別の位相にあるのではないかと思います。もとより中学高校の理科教師には、懸命に「科学」からひとを遠ざけようとしている御仁が多いようですから。


話を戻すと、個人的には、実に知り合いの名前がたくさん登場する本でした。後に新鉱物と認められる不明鉱物を採集してきたひとや、調査の協力者として、多くの鉱物マニア氏が出てくるんですね。東京石、多摩石の項に登場する今井裕之さん、わたつみ石の項に登場する鈴木保光さん……ほかの方々です。
顔を見知ったひとが多数出てくることも、この本の印象を「人間くさい」ものにしているのかもしれません。


そして、さらに個人的に気になったのは、「津軽鉱」発見をめぐる以下の一文。

 東京大学研究総合博物館にいた清水正明さんをチーフに、科学博物館のメンバーも加わって本格的な調査にとりかかった。室内実験もさることながら、現地の調査も重要なので、関係者一同で出かけることにした。参加者の都合で、車と電車に別れて碇ヶ関の宿に集合となった。車で先に着いていた我々は、電車グループが予定よりずいぶん遅いので心配していたが、かなりたって宿のフロントから電話が鳴った。おりからのメイストーム(五月の嵐)がもたらした洪水で、秋田県鷹巣付近で電車が止まってしまったということだ。結局、タクシーで来てもらい、遅い時間に全員集合となった。それ以後しばらく、電車グループの加藤・宮脇の組み合わせ(引用者註:現:国立科学博物館特別研究員・加藤昭博士、同地学第二研究室・宮脇律郎博士)は「嵐を呼ぶ」と言われるようになる。翌日は天気男の私?(最近ではそうでもなくなってきた)が加わったせいか嘘のような晴天となり、順調に調査をおこなって予想以上の成果をあげることができた。 (92ページ)



……………松原先生が天気男……嘘だあ
ぼくの知る松原先生はむしろ、雨男……。


とくに文中にも登場の清水正明先生(現:富山大学教授)と一緒だと、まじで「嵐を呼ぶ」ような気が……。
一昨年、両先生とフォッサマグナミュージアムの宮島宏先生(この方も『新鉱物発見物語』に登場しています)、id:kocteau君とぼくの五人で某所に行ったとき、標高1000メートルの山中で50メートル先に落雷するというモノスゴイ目にあっているのです。雨足はどんどん強くなり、あっという間に山道は川となり、時間雨量は50ミリを超えたという、生命の危険すら感じたほどの大嵐に(笑)。