漫狂画人―飛鳥昭雄の漫画家人生
暑いですね。
皆さんいかがお過ごしでしょうか。
校正が思うように進みません。どうしましょう。
ところで、これ↓が予想を上回るフシギ物件であることが判明。
- 作者: 飛鳥昭雄
- 出版社/メーカー: 工学社
- 発売日: 2005/07/01
- メディア: 単行本
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すでに漫棚通信さんでも触れられていますが、あすかあきお先生、超古代史やら擬似科学だけではなく、ご自身の来し方やマンガ史も微妙にサイケデリックなフィルター越しに見ているようです。
漫棚通信さんでは、飛鳥先生が中一のときに投稿した作品のキャラを手塚治虫がパクった(と、飛鳥先生が主張している)件が紹介されていますが、それだけじゃない。
トキワ荘グループのマンガ家に早世された方が多いといい、その理由を「20歳ごろの徹夜」に求めるくだりもなんだか変です。
ただ早世の原因を若い頃の無理に求めるだけなら普通の「世間話」の範疇ですが、しかし、その展開の仕方が……どうも…。
具体的にはこんな調子。
日本人の平均寿命が男女とも80歳を越えているのに、どうしてマンガ家だけは早死にしてしまうのだろうか。
手塚治虫氏が60歳(一節では61歳)、園山俊二氏が57歳、藤本弘氏が62歳、石ノ森章太郎氏が60歳、寺田ヒロオ氏が61歳……特にトキワ荘と関わって亡くなったメジャーマンガ家はすべて60歳前後で亡くなっている。
確かに60歳前後で亡くなった方が何人かおられるのですが、「トキワ荘と関わって亡くなったメジャーマンガ家はすべて」という限定には少し引っ掛かりを覚えます。
飛鳥昭雄は、この後、こう続けます。
別にホラーではなく、アメリカで興味深い寿命の統計があって、20歳前に徹夜を繰り返した若者は、60歳前後で亡くなる可能性が圧倒的に高くなるというデータがある。
私はそれを70年代の「リーダーズ・ダイジェスト」(リーダーズ・ダイジェスト社)で読んだ記憶があり、最初はあまり信じなかったが、こう立て続けに実証されると信じざるを得なくなる。
ここまでなら、「まあそういうこともあるかもね」という範囲で受け取ることができます。
若い頃の徹夜は、いかにも体に悪そうですからね。
しかし、飛鳥昭雄先生は、この「統計的データ」をあたかも法則のように扱い、ここから演繹して論を展開します。つまり「若死にしたマンガ家は若い頃に徹夜をしている→長生きしている者は徹夜をしていない」という論理展開です。
興味深いことに、同じトキワ荘グループのマンガ家でも、2005年時点で、赤塚不二夫氏はアルコール中毒でも健在だし、つのだじろう氏も鈴木伸一氏も健在だ。しかし、赤塚氏はトキワ荘グループではいちばん年上の部類で、いちばん最後にメジャーになったマンガ家である。よって、若い頃の徹夜はあまりしていないはずなのだ。
鈴木伸一氏は、幸か不幸かあまり作品は売れず、若いころに無茶苦茶な徹夜をすることはほとんどなかった。
つのだじろう氏も、他の仲間から比べるとメジャーになるのは少し遅く、本格的に人気に火がついたのは『うしろの百太郎』や『恐怖新聞』などのホラーマンガからである。つまり、彼らは若い頃にあまり無茶な徹夜をしていなかったのである。
しかし、ものごとすべてに例外がある。藤子不二雄の片割れの安孫子氏は、ちゃんと健在なのだ。トキワ荘に数ヶ月住んでいただけとはいえ水野英子女史も健在だ。
この謎を解く面白い説がある。女性はもともと長生きなので度外視するとして、つのだ氏と安孫子氏は共にホラーマンガ家でもあるため、それなりに変なものが憑いているというのだ。
では赤塚氏はどうかというと、アルコール漬けなのでゆっくりと死んでいっているだけだともいう……まことに失礼な分析があるが、私ではないので念のため。
『漫狂画人 飛鳥昭雄の漫画家人生』 P342-344 強調引用者
いかがでしょうか。
いわれている内容は、「世間話」の範囲で捉えればまあ問題視するようなものでもないと思うんですが、どうにも展開や語り口が妙です。微妙に印象が操作されていて、いつのまにか「トキワ荘に住んだ者は早死にする」という、どこかオカルト的なテイストが付与されているように読めてしまいます。
水野英子についての「トキワ荘に数ヶ月住んでいただけとはいえ」という記述がそれですね。話の力点が「20歳前の徹夜の有無」から「トキワ荘での居住経験」にスライドしている。
こう見てしまうってのは、飛鳥昭雄のキャリアを知っているからなんでしょうか。
だとしたら、さすがサイエンス・エンターテイナー! と賞賛すべき? そんなばかな。
しかし、20歳前のつのだじろうや赤塚不二夫が他のひとに比して徹夜をしていないってのはどうなんでしょう? 「20歳前」という限定があるあたり、説得力があるような、ないような。