ボリビアの自然硫黄

goito-mineral2005-02-11



そういえば、このところ鉱物の話をとんと書いてない。


一昨日、恵比寿駅近くのクリスタル・パワー店を覗いてみたんだが、三年ほどまえからずーっと棚にあったインドのスコレス沸石の群晶が売れていた。どうせ売れないだろうと当たりをつけ、そのうち値切り倒して買おうと思っていたものだ。
縁がなかったのだな。


その店の棚をあれこれ見ていたら、ボリビアの自然硫黄が安く売られていた。
おお、アルフレッド・ペトロフものじゃないか。こんなところに。


ペトロフ氏は、この日記でも何度か名前が出てきているが、毎年、池袋ショウでお隣になる、ニューヨーク州在住のレアミネラル・ディーラーだ。世界最大の鉱物情報データベースである、Mindat.orgのボランティア・スタッフもしている。


彼は世界的には、日本とボリビアの鉱物を扱うことでも知られている。ボリビアにも家があるし、奥さんは日本人だ。
この自然硫黄は、そのペトロフ氏が米国の業者からの「自然硫黄の結晶標本を8トン用意したい」という依頼に応え、採集に赴いたものなのだ。


産地はボリビアとチリの国境近く、おそろしく荒涼とした土地だ。
 http://www.mindat.org/loc-4505.html
ボリビア側からアクセスするには、一度、干上がった塩湖を横切らなければならない。車で塩の層の上を突っ切るのだ。120km、見渡すかぎり完全にフラットな、真っ白な塩の上を走る。ぺトロフ氏は「一時間も居眠り運転したって安全だよ。なにもぶつかるものがないから」と冗談をいっていたが、危険はもちろんある。岸に近づくにつれ、塩の層の内部に水で溶けた空洞が発達していたりするし、上陸地点を間違えると、岸が底なし沼になっていたりする。


塩湖をつっきった先に、国境警備隊と、わずかな集落があり、そのさらに奥にかつての硫黄鉱山の跡がある。
8トンもの標本を採取するのには、その現地のひとを雇ったんだそうだ。
そのあたりの話はあまり詳しくきけなかったので、Mineralogical Record 誌にペトロフ氏が寄稿した記事を参照すると、その、何からも見放されたような土地の人々には、全身にシラミがたかり、雑貨店兼ビデオ店を営む男が集落のボス的な存在となっていたという。
そして、硫黄の採掘現場にはガスが立ち込め、人々や子どもたちの体についた虫がみんな死んでしまったんだそうだ。
さらに、ここでのエピソードのハイライトは、こんな土地に赴任させられている小学校の女教師が、帰ろうとするペトロフ氏ら一行に「自分も連れて帰ってくれ」と懇願したことだろう。気の毒な彼女には、この見捨てられた場所から移動する手段は何一つなかったのだ。


ペトロフ氏は、「ボリビアに来たらいつでも案内するよ。もう何人も案内してるし」といってくれたのだが、やはり二の足を踏む。「あぶなくないの?」というぼくの問いに、「日本の鉱物産地のほうがよほど危険だよ。だって、奄美大島の大和鉱山(ペトロフ氏は、先の池袋ショウの前に、ここに行っていた)なんか、毒蛇(ハブのこと)がいるじゃないか」と笑うのだけれど。


でも、わずかな雨が降ったあとに塩湖の上で見られる風景は、一度みてみたい気もする。
雲ひとつない青空が、まっ平らな塩湖の上に薄く広がった水面に写り、視界360度のすべてが真っ青になるのだという。
きっと、「ブルーアウト」とでもいいたくなるような光景なんだろう。