佐藤心くんに手塚治虫の『ノーマン』(1968)を読ませるの巻。ぼくはこの作品は、いまの萌えという観点からみて再評価されるべきだと思うのだが、彼にはいまいちヒットしなかったようだ。


この作品は、手塚の作品では、小品ながら佳品というか、とくに評価されたり語られたりしているものではない。だから、再評価されるべき、という言い方で強調している。
お話の骨格は異世界召喚モノで、主人公の少年・中条タクは外人部隊めいた超能力戦闘チームに所属する。彼に秘められた能力があったという設定だ。召喚される先が「五億年前の月」で、戦う相手がトカゲのような侵略宇宙人であるところが、当時のSFだし手塚ならではのテイストなのだが、そこに王子様も登場するわけで(「ノーマン」とはその王子の名である)、やおい的にはかなりいろんなカップリングが作れると思う。ぼくは腐女子ではないので推測になるが、ブッチ隊長×タクとかタク×ノーマン王子あたりがぐっと来るんじゃないか。
しかも、ヒロインのルーピというキャラが自分の複製(それもひどく人形じみた)を作る能力を有していたり、主人公はマザコンでちょっとめそめそしたショタっ子(13さい)だしで、かなり萌え萌えだと思う。キャラの配置や設定などに、いまを先取りしていたようなところが多々ある。
SF作品としても、当時のマンガとしてはという留保はつくだろうが、なかなか小粋な仕掛けがあってよいのではないかと思う。それ以上に、変にモダンでどこかフレンチ趣味なデザインとか、手塚らしいグロテスクで象徴的な力に満ちた意匠といったものがいい。思春期前期的な、とても奥ゆかしい、身もだえするようなラブ・アフェアーもいい。手塚の萌えに関しては、もっと他に萌え萌えな作品が多数あり、ひとによって推す作品が変わってくるだろう。だから、これだけを「手塚の萌え作品」として特権化するのは少々、無理がある。そのワンノブゼムとして、ぼくの好きな作品として、これを推そうと思う。いま、誰か萌えマンガ家の作画でリメイクしないかなー。電撃系とかエニックス系とかで、どうですか。



あとまったく別の話だけど、学校の生徒が「『イノセンス』、最低だった。わけわかんなかった」といっていた。「オレもよくなかったとは思うよ」といっておいたが、理由はちょっと違うだろう。なんというか、引用があまりにも生のまんまで、まったく咀嚼されていないところが白けたのだ。
なんですか、延々とダナ・ハラウェイのガイノイド理論を長ゼリフでいわせておいて、そのキャラの名前が「ハラウェイ」ってのは。しかも二回も名前をいわせてるの。id:hesoなんか「二回も名前をいわすから、また後で出てくるひとかと思った」といってたし、あれはこれこれこういう引用で、かつまんまなんだよ、と説明した後は、あの「フォローミ〜♪」という主題歌が空耳で「ハラウェイ〜♪」と聴こえるようになったとまでいう始末。