追記

高校地学教科書での記述について、詳しく触れているページを見つけました。
http://georoom.hp.infoseek.co.jp/3litho/24platehistorical.htm
の、地向斜造山論についての記述以降です(ページを下にずっとスクロールすると出てきます)。

1980年代の高校教科書には、プレートテクトニクス地向斜造山論が両方とも記述されています。例えば、1984〜86年度教科書では、島弧の地震や造山運動、大陸移動、海洋底拡大などについて約10頁分の詳しい記述がある一方、地向斜造山論に基づく日本列島の生い立ちや造山運動(図6)についても約10頁分の記述があります。出版社にもよりますが、両者の関係は不明瞭で、地球全体を地球物理学的に見るときはプレートテクトニクス、地史を地質学的に見るときは地向斜造山論といった棲み分けがなされています。その後、地向斜造山論は1987〜89年度教科書では大分後退し、1990〜94年度教科書ではコラムなどで過去の説として軽く紹介され、1995年度以後の教科書で消失しました。
 理科教員が自身の専門外の科目を担当するとき、一番困惑するのが地学です。特に地質岩石の分野がやりづらいと言います。その一つの原因として、このプレートテクトニクス地向斜造山論の並列があったに違いありません。19世紀以前に確立された内容を教えるのに慣れている教員にとって、学界の論争がわずか(!)数年遅れで教科書を大きく変えてしまうような科目は、何とも困るでしょう(そこが他科目にない魅力なのですが)。教科書執筆陣にもプレートテクトニクス地向斜造山論に対し、それぞれ立場や思いもあったでしょうから、学習指導要領のしばりや出版社の意向との葛藤も強かったに違いありません。当時の教科書を読むと、そんな葛藤がそれぞれ文面ににじみ出ていて興味深いです。

このページの記述は、たいへんに示唆に富んでいます。いま40代半ばから50代前半くらいの年齢で、地質系学部で学んでいたひとは、急速な枠組みの転換と、それに対する抵抗を目の当たりにしたことでしょう。なお、このサイトの書き手は、地質系学部を卒業した、高校理科教員の方です。


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