鉄道忌避伝説の謎/酒井七馬伝/戦争はいかに「マンガ」を変えるか



鉄道忌避伝説の謎―汽車が来た町、来なかった町 (歴史文化ライブラリー)

鉄道忌避伝説の謎―汽車が来た町、来なかった町 (歴史文化ライブラリー)



最近、読んで面白かった本。
鉄道が市街地を避けて通り、駅が町外れに作られたのは、開通当時の人々が「宿場町がさびれる」「蒸気機関車の火の粉で火事が出る」などの理由で反対した(=鉄道の効用を理解せず愚昧であった)ためという通説が「鉄道忌避伝説」です。愛知県の岡崎とか、千葉の流山、新宿−立川間の中央線などが有名ですね。
この本はそれを検証した結果、そうした反対運動で路線変更になった証拠は一例も見つからず、実際にはできるだけ土地の高低差を減らし、橋の数を少なくするといった技術的な問題でルートが決められていたことを実証的に説いています。問題意識はシンプルに、検証はできるだけ一次資料にあたった、地道かつ緻密なものです。


いままで「当たり前」のように信じられてきた常識が、実は根拠なく、いつのまにか信じられただけのものであることを示す好例だと思いました。ただ、この本では「ではなぜ、『鉄道忌避伝説』が生まれたのか」といったところまでは踏み込んでいません。それは他の研究者の仕事になるのでしょう。
この本の存在は「とれいん工房の汽車旅12ヵ月 id:katamachi」さんで知りました。
id:katamachi:20070125:1169739383




本当は中野晴行さんの『酒井七馬伝』の感想を書こうと思ってました。
「とれいん工房〜」のid:katamachiさんも感想をお書きになってます。
id:katamachi:20070317:1174139612
ですが、もうちょっと整理しないといけないので、後回しにしてます(すいません……)。小田切博さんの『戦争はいかにマンガを変えるか』もそうですね。ほぼ同じ時期に出たこの二冊は、ここ数年、相次いで出版されたマンガ批評書のなかではもっともインパクトのあるものでしょう。
あえて『鉄道忌避伝説の謎』と並べてみたのは、いずれも「いつのまにか信じられてきたこと」の虚妄に光をあてた書ということです。やや強引なまとめですが。
とりあえずいまいえるのは、素晴らしい書だということです。
酒井七馬伝』は、ようやく全部読み終えたところなんですが、読物としてもじんわりと味わいのある本です。中野さんはとてもいい仕事をなさっています。


謎のマンガ家・酒井七馬伝―「新宝島」伝説の光と影

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