80年代バンド映像とYouTube (いい時代になったものだ)

YouTubeを見てると、「え? こんな映像って存在してたの?」というのによく出くわします。音楽ものの話ですね。ライヴ映像はもとより、こんなPVあったのかよ、というやつ。
ここ数ヶ月というもの、そういう映像ソース(とくに80年代ポストパンク・ニューウェーヴもの)を探し出して見るのが楽しくて仕方がありません。


ホント、昔は「こんなマイナーなバンドは、PV作ってないだろう」と頭から決めつけていたのも多いし、またビデオを作ってる情報だけは入ってきても、どこにどうアクセスすれば見られるのか判然としないものも多かったんですね。それこそ西新宿あたりの輸入レコ屋に通ってまめに海賊ビデオを買ってみるくらいしか方法がなかった。そうそう、89年ごろ加藤賢崇がパーソナリティをやってたケーブルTVの番組にハガキを送って読まれたことがあったんですが、ライバッハとかファド・ガジェットとかキャバレー・ヴォルテールとかをリクエストしたのに対して「そういうのはビデオがないと思います」と一蹴されたこともありました。


……けんそうさんのウソつき!全部あるじゃん!




ライバッハ "Sympathy for the Devil"



1987年。ローリングストーンズの有名な曲(阿部和重アメリカの夜』にも引用されてますね)のカヴァー。かなり手のかかった映像で、あーこんなのあったんだーという感慨は深いです。当時の音楽誌とかでも映像の存在は触れられていなかったし。
このバンドの特徴である、強迫的でまがまがしい政治的象徴と、裏腹の映像美が前面に出ています。とはいえ、複数の象徴が意味するところのもの同士が衝突を起こし、全体のメッセージとしては焦点を結ばせないように作られている印象があります。ていうか、ワケわからん。スロヴェニアという、日本から見るとたいへんに「遠い」土地が持つ状況に根ざした部分もあるでしょうし、だからこそ日本人のぼくの目にはワケのわからないものに映っている可能性は高いのですが……しかし、それでも、単にカッコよさげにみえるものを全部ブチこんだだけでしょ、という気になります。大真面目な顔をしてネタをやってるのかもしれないし。


次、キャバレー・ヴォルテール。"Sensoria"



1984年。このブログでもたびたび言及している、中期キャブス、エレクトロファンク路線の曲。
たぶんこれ、90年代頭にアルファレコードから出るはずだったボックスセットに収録される予定だったヤツだと思います。


キャブスのボックスセットのことは、ひょっとして黒歴史になってるのかもしれないのですが、CDだけでなく、ビデオやブックレットもついた豪華シリーズで、全五回配本……じゃない配盤(という言葉はありませんが)の予定でリリースされたものでした。しかし最初の二回分が出たところで頓挫、以後、アルファも倒産し、現在にいたるまで音沙汰なしというものです。
本国イギリスのミュートレコードによる旧作再発を受けての企画だったんですが、最初に出したのが単にミュート盤の二枚づつ(初期アルバムを順番に四枚)をカップリングしてパッケージしなおしたものだったのが敗因だとニラんでいます。だって、ファンはたいがいすでに輸入盤で持っていたわけですから。


ただ、このときのボックス入り日本盤企画は、ミュートから再発になったものだけだったかもしれません。だとすると、このビデオの曲はヴァージン傘下のサム・ビザーに移ってからのものですから、収録予定ではなかったことになります。


そんなことより、キャブスで驚いたのはライヴ映像ですよ。
これ。





たぶん1982年。ベースのかっこよさに驚きました。
それまでのノイズ/インダストリアル路線からエレクトロ・ファンク路線に切り替えたころのライヴですね。オリジナル・メンバーのクリス・ワトソンが抜け(この人はより実験的なノイズバンド、ハフラー・トリオをはじめます)、ステファン・マリンダーとリチャード・H・カークの二人になったばかりのころです。この映像のドラムはサポートメンバーのひとみたいですね。当時のアルバムのクレジットから類推するに、Hulaというバンドの人ではないかと思うのですが。


このアルバムに収録されている曲です。

Crackdown

Crackdown



このアルバムの位置づけや評価に関しては、ぼくがくだくだしく説明するよりも、アマゾンのレビューのほうがよくまとまっていますね。


Made In Sheffield [DVD]

Made In Sheffield [DVD]

脱退したほうのクリス・ワトソンについては、最近、このDVD『メイド・イン・シェフィールド エレクトロポップの誕生』でインタビューを見ることができたんですが、80年代シェフィールドの電子音楽ムーヴメントについて、インタビューで構成したこの記録映画、なんと肝心のキャブスの二人の協力は得られなかったみたいです。さらに映像ソースの使用許可も出なかったとのこと。
だからヒューマン・リーグとかのビデオは出てくるけど、キャブスのは出てこない。契約の関係とかかもしれませんが(『24アワー・パーティ・ピープル』に、ストーンローゼスやスミスがまったく出てこないという例もあり)、でも、成功したバンドを抜けたあとの苦労を語るクリス・ワトソンをみると、「君ら、いったい何があったんだ?」と思ってしまいます。
『メイド・イン・シェフィールド』については、また何か書くかもしれません。