本日のマンガ

トモネン

トモネン

昨晩、薬局に行きついでに大庭賢哉『トモネン』を購入。

表題になっている連作『トモネン』は、山で老人のもとで魔法使い修行中の少女のお話。メルヘンチックにみせて、すっとぼけたおかしみがあるのがいい。


「魔法って なにか資格とかって 取れるの?」
「じゃあ修行終わったら どうするの 就職とかは?」
というミもフタもない問いに答えられない主人公。


「つかみ」のギャグにみせて、案外、深い。
なぜなら、魔法使いの師が
「絵画教室の ようなものでは? 一年コースだし」
と答えるからだ。


本作はジブリアニメを思わせる的確な絵と、映画的なカット割りのコマ割りで描かれている。
同人誌に発表した作品を集めた単行本だ。
作者は主に児童文学などの挿絵の仕事をしている。


そうしたキャリアを考えあわせると、魔法修行が「絵画教室のようなもの」ってのは、少し重みを持ってみえてくる。
とても素晴らしい力でありながら、でも現実にはその無力さばかりが目についてしまうところとか。
絵とは違うけれど、理科系でも「博士号とかけて、足の裏についたごはんつぶととく。 そのこころは、取らないと気持ち悪いが、取ったところで食えるものでなし」といわれているそうだ(たぶんid:doubletさんの日記で見たと思う。うまいこというもんだなと思った*1)。


『トモネン』の魅力は、どこか諦念を漂わせながら、しかし決して後ろ向きにはならないところなんじゃないだろうか。
よりシリアスな短篇『リーザの左手』や、ほかの作品にもそれは共通している。派手な演出をとるのではなく、静かに置かれた絵にほっとしたような気持ちを感じる。構図が力を持っている。その配合の具合がいい。こころの底のほうに「すとん」と響く読み応えがある。


「魔法」ってのは、きっとそんなもんなんだ。

*1:やっぱり、そうでした。http://d.hatena.ne.jp/doublet/20041001