「トカトントン」について注釈

太宰治『トカトントン』より。

何か物事に感激し、奮い立とうとすると、どこからとも無く、幽かに、トカトントンとあの金槌の音が聞えて来て、とたんに私はきょろりとなり、眼前の風景がまるでもう一変してしまって、映写がふっと中絶してあとにはただ純白のスクリンだけが残り、それをまじまじと眺めているような、何ともはかない、ばからしい気持になるのです。

この日記ではよく「トカトントンという音が聞こえてきたので」などの記述が出てきます。今後もしばしば登場するでしょう。もっとも、小説ほど深刻なものではなく、やや比喩的な、ネタ的な使い方をしていますが、読者の便宜をはかるため「トカトントンという音」を説明した箇所を引用してみます。太宰の小説のなかではこれがいちばん好きかもしれません。