つい「わーい」となってマンガン話を繰り広げていますが、鉱物趣味のなかでもマンガンはやばい。というか、嬉しそうにマンガン話を続ける俺はヤヴァイ!

goito-mineral2003-10-30



何がどう、やばいかというとですね。鉱物趣味全体を音楽趣味に例えてみましょう。私はロックが好き、ボブ・ディランストーンズあたりがいいですよね。ビートルズも好きです。ぼくは空気公団とかくるりとかをよく聴いてます。わたしは椎名林檎が……などなど、ふつうの「音楽好き」が集って楽しくおしゃべりしてる場があるとしましょう。そこにですね。「いや、タンジェリン・ドリームの二枚目はですね!」とか、「重要なのはむしろコニー・プランクでしょう?」だの、あげくのはては「ノイエ・ドイッチェ・ヴェレ」の定義は云々、いやその名称は使うべきではない、とか何とかの論議をはじめるやつがいたらどうですか? やばいでしょう。いまのぼくはそんなんです。そんな感じなのです。しかも、ジャーマン・ロックというこれまたマイナーなもんを例えに使ってるので(この論理展開では必然とはいえ)、やばさ二乗です。だから画像は「レコスケ」なのです。でも続けます。マンガン鉱物の魅力。


「長島石」「原田石」「鈴木石」という鉱物があります。いずれも日本人研究者への献呈名がつけられた、日本国内ではじめて発見された新鉱物です。長島石は暗緑色、原田石、鈴木石は鮮やかな緑色。すべてマンガン鉱山から発見され、現在のところマンガン鉱床以外からは発見されていません。
これらの鉱物は、成分にマンガンを含むものではなく(「マンガン鉱物の魅力」と言っておいて、のっけから「マンガンを含まない鉱物」の説明がはじまるあたりにも、業の深さが感じられると思います)、緑色の発色は成分として含まれるバナジウムによるものです。これらの鉱物―バナジウム元素記号から「3V」と称されることもある―は、その独特の美しい色彩と、レアさの故に、コレクターたちにとても人気があります。とはいっても、多くは1ミリにも満たない点であったりします。1センチを超える結晶など、ほんのわずかしかなく、また、長島石は群馬県茂倉沢鉱山と岩手県田野畑鉱山、鈴木石は左の二鉱山と長野県浜横川鉱山、原田石は岩手県野田玉川鉱山、愛知県田口鉱山、愛媛県高知県松尾鉱山、そして鹿児島県大和鉱山からしか得られていません*1。限られた産地。でもどうにか採集は可能。独特の美しい色。世界的なレアミネラル。そして、バナジウムという希少元素……というあたりが、人気の理由となっています。この「3V」の発見者が、昨日の日記にも記した滝沢マン吉こと滝沢浩氏なのです。以下、ちょっと長くなりますが、滝沢氏の手記を引用してみましょう。

1973年12月23日、出鉱量は多くはないが、付近一帯のマンガン鉱床で硼酸塩鉱物を産する所が多いので、茂倉沢とかいう所もその可能性ありと狙いをつけて探しに出かけた。山本亮一先輩ともども桐生川の一支流に分け入った。林道の終点あたりの沢の中で、まずハウスマン鉱とテフロ石から成る鉱石が発見される。あるぞ、あるある。沢の中に転がっている黒い石は、ことごとくマンガン鉱石だ。桃紅色のばら輝石が目立つ。粗晶で淡肉紅色の菱マンガン鉱、各種の硫化鉱物(中略)。
しばらくすると採集袋が一ぱいになる。袋に入れるに値するものが多いからだ。帰途、もう一度沢の中で採集しながら歩いてゆくと、水の底に沈んでいる鉱石がある。引き上げてハンマーをあててみると、なかなかいいばら輝石だ。さらに叩いているとき、割れ口にキラッと光る鮮緑色の鉱物!! 片割れは水の中に落ちた。そして水中で緑あざやかにゆれているではないか!! やった、やったぞ。まさしく原田石。そう叫んで飛び上がろうとした。いつもだと石を抱いて走りまわり、ばんざい、ブラボーを叫ぶのだが、のどまで来た喜びをのみ下してしまった。山本氏は私の下流10mほどの所にいた。なんて悪い奴だろうね、私は。そして帰り途、山本氏の後を歩きながらそっとポケットから取り出して独りながめ、にそにそわくわく、この気持ちはなんともいえないね。なんとかと鉱物採集は、こっそりやるから楽しいのだ。数日後、科学博物館の加藤昭博士のもとに持っていくと、例の調子で「これは……」と息をつめ「どこでとられました?」 博士の研究により、その後、原田石のBa置換体*2であることが明らかにされた。 <「鉱物情報」No.24 鉱物情報同人 1978>

鈴木石、発見の瞬間です。思い出の手記なので、多少の脚色はあるでしょう。文中の加藤昭博士は、9月28日の日記に出てくる加藤昭先生のこと。ぼくはこの手記を高校時代に読み、「ああ、鈴木石ってなんて素晴らしいものなんだろう。欲しいな、欲しいな」と思っていたのでした。それから20年、ぼくの手元にはまだ、まともな鈴木石の標本は来ていません。いわゆる「鈴木シミ」という、ごくごく微細なものがあるだけです。それにしても滝沢さんって、いいものが採れると隠しちゃうおすまし顔のひとだったんですね……。

つづく……かな?

*1:イタリアのGambatesa鉱山から、原田石の産出が知られています。それ以外に国外の産地はありません

*2:引用者註:原田石の成分のうちのストロンチウムを、バリウムで置き換えたもの