マル島-ムル石

goito-mineral2003-10-04

スコットランドにマル島という島があります。つづりはMullです。
 ぼくにとっては「ムル石」の原産地ということで記憶されていた土地です。「ムル石」*1は、アルミニウムの珪酸塩の、たしか高温低圧側の鉱物として重要な位置をしめていて(うろ憶えで書いています)、あと陶磁器の成分となっている(これもうろ憶え)ものなのですが、なんといってもムルという音で強烈に印象づけられていたのでした。
しかし、ネットであれこれ見ていくと、どうもIsle of Mullは、「マル島」なんですね。
原音主義にも限界はあり、すでに親しんでしまった鉱物名はそれはそれでいいんじゃないかとは思っています。カナ表記にした時点で「日本語」なわけだし。"Fergusonite" は、「フェルグソン石」で通用しており、英語読みで「ファーガソン石」としてしまったら、それはもう通じないでしょう。もとはスコットランドの物理学者、R.Fergusonにちなんだ命名ですから、原音に従えば「ファーガソン石」になるはずなのですが。
以前、加藤昭先生に「あれはどうしてファーガソン石ではなくドイツ語読みのフェルグソン石なのですか」と尋ねたことがありました。先生も昔、同様のことを柴田秀賢先生に尋ねられたことがあったのだそうです。そうしたら、柴田先生は「(フェルグソン石のほうが、英名を書くときに)つづりを間違えなくていいじゃないか」とお答えになったんだとか*2
それはそれとして、マル島というところは、一度、行ってみたいところです。鉱物趣味をやっていると、単なる観光、というのがだんだんできなくなってくるのですが(どこに行ってもなんかしら石を探してしまうから。都会でもまず石屋を探すし)、ここは観光でも行ってみたいと思いました。

*1:「新版 地学事典」(地学団体研究会編 平凡社 1996)では、項目名を「ムライト」とし、「原産地Mull島を示すため、和名としてはムル石が適当とする見解もある」と記述。項目の執筆者は加藤昭・吉井守正。また、最近出た「フィールドベスト図鑑 日本の鉱物」(松原聰 学研 2003)では、「マル石」という表記となっている。

*2:もちろん、この返答はむしろ気の利いたジョークであり、背景には戦前の日本において、自然科学的な知がドイツから輸入されていた事情がある。柴田先生がこの答えをされたのは戦後のこと。念のため註をしておきます。