島田虎之介のマンガを読みましょう。

島田虎之介の新刊『東京命日』(青林工藝舎)が出た。うれしい。まずは読んでみてください。こういうマンガには本当に売れてほしい。


東京命日

東京命日



もちろん、同じ作者の前作『ラスト・ワルツ』もだ。
できるだけ多くのひとに知ってほしい。「知ってらあ」という向きももちろんいるだろうけど、もっともっと語られていいマンガ家だ。


ラスト.ワルツ―Secret story tour

ラスト.ワルツ―Secret story tour



以下、一昨年「ユリイカ」のマンガ特集で書いた島田虎之介の紹介文を再録。テキストファイルからなので、実際の誌面とは多少の異同がある。

 島田虎之介の登場は、「ひさびさの大型新人」という賛辞によって迎えられた。単行本『ラスト・ワルツ』の解説で、マンガ評論家・阿部幸広は「マンガのストーリー性への回帰」を意識的に行っていると評する。だが、マンガというジャンル一般において、優れた「ストーリー」は変わらず希求されている。島田虎之介は、むしろ「物語ること」の困難をまるごと抱え込んでいるように私には思える。


 11のパートからなる『ラスト・ワルツ』は、ブラジル製ビンテージ・バイクの来歴をめぐる語りからはじまる。作者と同名の主人公が、自身の属する草サッカーチームのメンバーが祖父から譲り受けたバイクについて調べたところ……という体裁である。新人賞受賞作のこの短編の時点では、小粋に蘊蓄を語るエッセイマンガに見える。だがその後、草サッカーチームのメンバーたちが行き会う人々のエピソードが重ねられるうち、様相は一変する。世界初の宇宙飛行士になるはずだったロシア人、チェルノブイリの初期消火にあたり、ひとり生き残ったウクライナ人消防士、日系ブラジル人一世の老人、北朝鮮に拉致されていたアメリカ人パイロット……。


 いずれも、二十世紀後半の大状況に関わった無名の人々だ。彼らが見えない糸に導かれるようにして一瞬、交差し、「見えない物語、語られざる人生」が立ち現れる。さらに、この作品には何重にも偽史めいたフェイクが仕込まれている。作中作のようなフィクションが語られるうえ、そもそも物語の狂言まわしであるバイク、エルドラドNRaの実在自体、どうも怪しい。亡命したナチの将校が開発したという出自、ウロボロスのエンブレムなど、あまりにも象徴的にすぎる。彼の作品が、きわめて緻密な構成による、徹底して考え抜かれたものであることは間違いない。そこに周到にフェイクを仕込むこと。それは人生を歴史のなかで「物語ること」の不可能性という認識と解釈していいだろう。


 島田は、現在「アックス」で第二作『東京命日』を連載中である。タイトルからも想像されるように、第一話では小津安二郎の墓が登場する。映画と人生の間にズレがあるように、マンガと人生の間にもズレがある。「物語る」こととは、そのズレを生む効果でもあり、ズレを埋めようとする営為でもある。いずれにしても、ぞのズレに対して意識的であるということだ。島田虎之介は、そのひとつの好ましい回答である。



とりあえず今日はここまで。