破壊的な音楽でうさばらし/映画『バーダー・マインホフ 理想の果てに』

今朝のおはようミュージックはこれ。
SPKの "Slogun" ですよ(※ノイズ注意。一般的な意味での音楽ではありません)
ちょっとやさぐれる出来事があったので、朝からガーっとノイズです。
なんというか、ものすごく辛いものを食べて気合を入れるような感じですか。


"Kill kill kill for inner peace!" 殺せ殺せ殺せ! 内面の平安のために!
"Bomb bomb bomb for mental health!" 爆破爆破爆破! 精神の健康のために!
"Therapy through violence!" 治療は暴力によって!







歌詞が物騒なのは、SPKというユニット名が、西ドイツのテロリスト集団「社会主義患者集団」にインスパイアされたものだからです。
バンドのほうのSPKは、オーストラリアで結成され、このテロリスト集団 "Sozialistische Patientenkollektiv" のほか、"SePpuKu(切腹)"や、"Surgical Penis Klinic" といった名義を用いていました。アクロニムイニシャリズムを使った言葉遊びですね。
SPKの中心人物であるグラエム・レヴェルは、わりと典型的な80年代ポストモダニストですから、こうした所作にも、”あえて表層と戯れる”ような、シニカルな姿勢がうかがえます。
なお、テロ集団のほうのSPKは、1968年ハイデルベルグ大学病院精神科で結成された団体です。英語版のwikipediaにリンクを貼っておきます。
http://en.wikipedia.org/wiki/Socialist_Patients'_Collective


90年代に「パワーレンジャー the movie」の音楽を手がけた男は昔こんなのやってたんですよと、全米の元よいこの皆さんにお伝えしたいです。




ドイツのテロリストといえば、先日、映画『バーダー・マインホフ 理想の果てに』を最終日に観にいきました。
http://www.baader-meinhof.jp/
ひじょうに冷徹な視点でバーダー・マインホフ〜西ドイツ赤軍の軌跡と崩壊を描いた佳作だと思います。
もっとも、当時のドイツの状況や雰囲気、司法制度などを知らないので、わからないことも多いのですが、たいへん手際よく、1968年からの約10年間に何があったのかを伝えるものではありました。
ドイツのテロリストについては、ジリアン・ベッカー『ヒットラーの子供たち』などの本をいちおう読んではいても、いまひとつ実態を想像できないというか、ピンとこないものがあったのですが、この映画で急速に像を結んだという感があります。


ヒットラーの子供たち―テロの報酬 (1980年)

ヒットラーの子供たち―テロの報酬 (1980年)



なにより、バーダー・マインホフが、思いのほかならず者の犯罪者集団だったのにもかかわらず、思想的な革命集団としてそれなりに支持されていたことに驚きを感じました。やはり時代の雰囲気のなせるわざだったのでしょうか。
またこの映画の、ひどく突き放した視点(テロリスト側にも、警察側にも寄り切らない)にも感服しました。
感傷もできるだけ排除されているように思えます
それでも、ウルリケ・マインホフが獄中で自殺するくだりはかわいそうでした。


日本でも、日本赤軍を題材にした映画が何作か作られていますが、赤軍側、警察側のどちらかの視点に寄り添っているものになっているようです。
日本人とドイツ人の感性の差かもしれませんし、政治的な環境の差に求められることかもしれません。
もっとも、そんな突っ込んだ議論をする以前に、『突入せよ!』しか観ていないのでたいしたことは言えないのですが。